鷹と生きる 鷹使い・松原英俊の半生

鷹と生きる 鷹使い・松原英俊の半生 の詳細

松原という方を昔から知っていたので本書を読んだ。どのように知っていたかというと次のような経緯である。まず中学時の担任の先生が、松原と大学の同級生だったことで仲が良かったという点である。実際に松原が上京した際に家に泊めていたというから親友レベルと言って良いだろう。但し、当時は鷹匠というもののイメージが湧かなかったので、興味はそこまでだった。次に立花隆の本で松原を読んだことがあった。「青春漂流」というその本は、自分の考えで生きていく職人を目指す若者のインタビュー集だ。今でも読み返すが面白い。そこでの松原は、結婚前までである。本書を読んでその後の松原の人生を知ったところだ。自分の家族より鷹が大事だと言い切る松原は人間離れしている。むしろ交尾後に立ち去って一切産まれてくる子供の面倒を見ない動物の亜種のように見えてしまう。勿論実際の松原がそうかどうかは分からないが、読んでいるうちに「松原とはむしろそういう人であってほしい」と秘かに願望している自分に気が付いて驚いたくらいだ。本書を読む限り、松原という方は動物に近いように見える。そんな松原に快哉を叫ぶ読者も多いと想像できるが、なぜ、動物のような人間を讃えてしまうのかと考えることが本書を読むということだ。もちろん、日頃の社会生活に疲労した人が本書を読んで一服の心地よさを感じるというようなことは簡単に言える。但し、なぜ心地よさがあるのかと考えるが更に大事だ。他の人は分からないが、僕は、人間には無意識の中に野生の記憶が残っており、松原の生きている様は、その野生の記憶に働きかけてくるように思える。実際僕らは自分の心と精神が分かっているようで実は大して分かっているわけではない。例えば、自分でも意識しないで、不思議なことをやってしまうことは誰にでもあるのではないか。そうしてそれは心の底に蠢いている野生ということはないか。そんな野生を松原は心の底から解き放っているように見えるから、本書を読んで面白いと感じるのではないか。そんなことを考えながら頁を繰っていったところである。面白い一冊だ