一行でわかる名著 (朝日新書)

一行でわかる名著 (朝日新書) の詳細

またしても著者に脱帽である。哲学・思想のエッセンスをわずか1行で表現する。①ニーチェの「これが人生か…ならばもう一度！」の名言の意味は、与えられた人生を我が運命として肯定し、ポジティブに現実を乗り越えて生きよということになる。だれしも自分が置かれた状況を受容して同じ日々の繰り返しを生きている。ここには、「永劫回帰」＝輪廻、「運命愛」、「超人」の思想がある。キリスト教道徳を奴隷道徳として否定するニーチェにとって人々の生きる拠り所となる思想はない。このニヒリズム（虚無主義）を克服するためには、運命愛による現実の克服が必要である。それには力強く、たくましく生きる超人である必要があるのだ。超人を例えると、忍耐のみのラクダではなく、力と本能のみのライオンでもなく、純粋無垢で新たな価値を創造しうる子どもしかない。純粋無垢であるがゆえに、既成の価値観に束縛されず、新たな価値を創造出来るのだ。②ハイデガーの『存在と時間』は20世紀最高の名著であるが、「死はいつでも各自の死として存在する」の意味は、死は避けることの出来ない有限な時間の終わりを意味する。死を避けられない運命として受け入れ、過去を引き受け、現在を理解し、将来へ我が身を自ら投げかける（企投）ことが存在了解である。ハイデガーの場合、共同存在は「民族」として理解され、民族の命運に我が身を投じる理性的存在者が現存在としての人間である。社会的存在としての人間を「民族」と見なしたハイデガーの政治哲学に対しては、ナチスとの親近性が指摘されたが、事実として一時的にハイデガーはナチスに入党していた。賛否両論あるハイデガーの存在論は、戦後は近代技術批判として展開され、原子力時代における人間は「存在の牧人」（存在の守護者）としてのあり方が主張された。本書を出発点にして、原典を日本語で読みたい。お勧めの一冊だ。